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産婦人科医・高尾美穂

「妊活を始める前に知っておくこと・決めること」産婦人科医・高尾美穂先生のアドバイス

“妊活”や“不妊治療”という言葉をよく聞くようになりました。でも、実際にどのようなことを行っているか知らない人も多いのではないでしょうか。
妊活・不妊治療について産婦人科医の高尾美穂先生にお話をうかがいました。

妊娠しやすいタイミングをちゃんと知ってトライしているかが妊娠への近道

___いわゆる妊活とはどんなことをするのでしょうか

高尾美穂先生(以下、高尾先生):性交渉をもつタイミングを見計らう「タイミング法」についてお話しすると、排卵検査薬を使うか、生理周期の記録を使うか、病院を受診してエコー検査で卵巣の状態をみてもらいトライするか、といった方法があります。

大切なことは、妊娠しやすいタイミングをちゃんと把握できているかということですね。妊娠成立に向けて自分たちの生活をシフトできているかは、とても重要だと思います。

不妊治療を始める前に2人の相違をしっかり話してみて

___1年間授からず「不妊治療しましょうか」となった場合、病院の検査はどのようなものでしょうか

高尾先生:ファーストステップの検査としては、女性側は卵管の検査、男性側は性液の検査が一般的です。(女性側の)検査の方法は、卵管造影検査や通水検査(生理食塩水などを使った検査)といった方法があります。

ほかにも一般的なものとしては子宮頸がん検査です。エコーで筋腫や内膜ポリープがないかも調べます。もうひとつはクラミジア検査。これが陽性だと、卵管の通過性に問題がある場合があるので。

___不妊治療を開始するときの注意点はありますか

高尾先生:(不妊治療を開始する前に)子どもがどれぐらい欲しいと思っているのかというのを、2人で擦り合わせる必要があります。女性側はすごく欲しいと思っているけども、男性側があまり協力せず、その気持ちのずれがつらくなるケースはいくらでもありますから。

本当は結婚する前からのほうがいいですよね。犬を飼いたいとか、将来は一軒家がいいとか、実家の近くがいいとか、いずれは実家に戻ろうと思っているとか、これらに含めて子どもについても話しておくことが必要なんじゃないでしょうか。

2人の総意としてどれぐらい(子どもが)欲しいと思っているのか、不妊治療に通う期間を何年にするのか、妊活に使うお金をどこまでにするのかなどは、始める前に考えておくことが望ましいです。特に、どれぐらいお金を使うのかとかはしっかり話し合わないと、誰も止める人がいなくなるのでなし崩しになっちゃう。

からだに変化が起こるのは女性なので、女性(だけ)のことみたいなイメージとして捉えられてしまうことが多いですよね。でも、女性側だけががんばっている状況はつらすぎますから、コミュニケーションはとにかく大事です。

___不妊の原因は特定できるのでしょうか

高尾先生:不妊の原因が見つからないという割合は結構高いです。病気が見つかれば諦めがつくかもしれないけれど、はっきりとした異常が見つからないほうが諦めきれないですよね。

「妊娠できるからだか知りたい」という相談はしばしばありますが、異常がなかったら妊娠できますよという検査は、残念ながらないんです。2人に関わることだから、1人だけの問題ではないし、それぞれ検査した項目には異常がないけれども、それ以外に妊娠できない理由というのは不特定多数あるということです。

___悩みが多様ですね。妊活を始めるタイミングはあるのでしょうか

高尾先生:月経回数は人生で約450回と計算されていますが、その妊娠できるチャンスのなかでどのタイミングでトライをするのかというのを、ある程度早めの年代で考えてみる機会があるといいですよね。時間は戻らないですから。

ただ、早ければ早いほどいいというわけではありません。だけど、社会に出てこれからと考えたときには、早いほうがいいのは確実。

一般的に、1年間妊活しても妊娠しない場合を“不妊症”と定義されています。ただ、35歳以降だと1年間も待つともったいないよね、半年トライしてちょっと難しそうだったら、婦人科に来てね、40歳以上だったら、すでに何か検査をしている人が多いです、というイメージで捉えてもらったらいいと思います。
43歳でこれからという人もいて、1回でも早い排卵のほうがいいよと伝えています。

___妊活をやめた途端に妊娠できたという話もよく耳にします。そういうこともあるのでしょうか

高尾先生:ストレスがかかっていない状態のほうが妊娠しやすいというのは、確かですよね。「妊活、がんばるぞ!」だと、交感神経が活発になります。男性側は交感神経活動が有利な状態で射精をするので必要ではありますが、女性側の卵巣機能にとっては、ちゃんと血液が流れるということが必要です。交感神経活動が優位というのは、血管が収縮して、卵巣機能としては望ましくない状態だということは、知っておいたほうがいいでしょう。

不妊治療や妊娠。どの年代も「お互いさま」と思って働けるといい

撮影:藤沢大祐

___不妊治療をしている方に向けて、高尾先生からアドバイスはありますか

高尾先生:妊活とか不妊治療中のストレスというのは、だいたい4つくらいのグループに分かれます。

働きながら妊活をするときには時間とお金。仕事と治療の優先順位、周りに話していない、時間調整がしにくいとか、すごく現実的な悩みですよね。

次に、婦人科を受診する医療面のストレス。注射とかが痛いとか、排卵するタイミングのために夜中に来なきゃいけないとか。医師も看護師も作業的な感じなので、主治医のように心の悩みも話せるような受診ではないことがほとんどです。

もうひとつは、人と比べることによるストレス。同級生に子どもが生まれた、年賀状の(子どもの)写真、毎年親戚に会うと出る話題など。自分に子どもがいなくて自分の近い人にはいるという悩み。

最後は周りの人たちからのストレス。パートナーが自分と同じような熱量で取り組んでくれていないといった齟齬や親からの圧を感じたりとか。

あとは、不確実だということ。妊娠成立は、がんばった分だけご褒美がもらえるものではないということですかね。

繰り返しになりますが、いつまでトライをするか、お金はいくらぐらい使うのかは決めておいたほうがいい。2人ですることだから、同じぐらいのイメージを持っておくことが大事です。

そして、不妊治療代を誰が払うのかということ。保険適用だったら(保険証を提示する)女性側に請求されるわけです。となると、不妊治療代は自分持ちみたいな話はちょこちょこありますよ。なんかリアルですけど。
男性側で不妊治療の話というのは、そんなに話題として出てこないから、特に女性側がね、モヤッとした気持ちになるんじゃないでしょうか。

___卵子冷凍保存を選択する女性も増えている印象があります

高尾先生:たとえば、受精卵が凍結してある場合、(受精卵を子宮に)戻してホルモンとかを足せばうまくいく可能性が高いんですよ。卵の若さは、採卵したときで止まっている。36歳ぐらいで取って40歳ぐらいで戻すとかだったら、36歳の相当の状態で受精卵を準備できる。でもこれは、受精卵の凍結であって、卵子凍結というのはそれよりも全然手前の話です。

受精卵というのは、パートナーの精子を受精させ、細胞分裂の途中でやめてあるから、妊娠成立する可能性が高い。でも、卵子凍結というのは未受精卵。はるか手前の段階だということを知らず、受精卵を凍結させてあったものがうまくいってるから、凍らせておけばうまくいくみたいなイメージかもしれませんが、そうじゃないということは知ってもらったほうがいいです。

___不妊治療をしている人に対して周りが気をつけることや対応についてのお話はありますか

高尾先生:過剰な対応は必要ないと思います。もし傷つけるつもりなく傷つけちゃったと思うことがあれば、「そういうつもりじゃなかったけどごめんね」といい、それを「ごめんね、私もちょっと過敏になりすぎたわ」で終わる関係性が友だちなわけで。それに、本当に近い友だちには話しているかもしれないけど、同僚や産業医に相談してないケースは多いですよ。相談したからいいことがあるわけでもない。しかも、上手くいかなかったことが知られてしまうので、わざわざいわなくてもいいやって思いますよね。

コミュニケーションがちゃんと取れる上司とか、「ちょっと子作りをがんばりたいので、仕事を融通して欲しい」みたいな相談をできる関係性の人はいると思うけれど、現実的に話しているかといわれたら、そうでもない人が多いのでは?

___「そういうこともあるよね」という世の中になっていけばいいですね

高尾先生:そうそうそう。子どもが欲しい女性は、妊娠にうまく進めば休まなきゃいけない期間が必ず出るわけだから。
男性のこの世代だと、ほとんど休まないし、ある意味バリバリ働いて当然のように思われる世代だから、余計ギャップが大きいんだと思いますね。

それは、妊娠を希望している年代の女性だけじゃないですよね。年代も性別も関係なく、お互いさまという感じがいいと思います。

妊活は妊娠しやすいタイミングになるべく多くトライできるような生活や環境づくりが大事とのこと。不妊治療を始める前に、検査やお互いの気持ちに齟齬がないか、お金のことを話し合っっておくこともポイントになりそうです。

(産婦人科医・高尾美穂先生)


  • 撮影/藤沢大祐
  • プロフィール
    高尾美穂先生(産婦人科専門医・医学博士・婦人科スポーツドクター)
    /女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道 副院長。ワコールフェムケアポータルサイトのアドバイザー。近著に「更年期に効く美女ヂカラ」リベラル社刊がある。